手品師は思うがまま数々の品をカラの帽子から出しました。あたりは極彩色うまり、人々は喝采し拍手をおしみませんでした。 しかし誰も知らない彼の胸中に絡んだ糸が丸くなってわだかまっていたのです。 名人と言われた彼にもこの糸だけはほどけません。 心に深くくいこんでいたのです。 「アー私には不可能といえる技もなく、かつて、なし得ないことはなかったのに」と彼は嘆きました。「タヒチに逃れたゴーガンが憧れです」と私に語りました。 ある施設でこの人は華やかに手品を披露し、私は似顔絵のボランティアでした。 実は私も似たような人生と話しかけました。 障害者こそ与えられた環境から逃れられないのです。 与えられた環境をよりよく改革していくことも生き甲斐かもしれませんよ。 洋々とした希望の人生にいつかできてしまった限られた空間。人間の弱さを知った手品師です。 やがて窓の外に一番星が輝きはじめました。 |
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